要点
Authorized Representative(AR、欧州代理人)とは、EU域外に所在する医療機器製造業者から書面で委任を受け、EU域内で製造業者に代わって一定の業務を行う者です。EU MDR(Regulation (EU) 2017/745)では、EU域外の製造業者が機器をEU市場に上市する際、単一のARを指名することが義務付けられています。ARは当局との窓口として文書の確認・提供や協力を担いますが、製造業者としての責任そのものを負うわけではありません。
ARが必要になるのはどんな場合?
EU MDRでは、製造業者がEU加盟国内に拠点を持たない場合、単一のARを指名して初めて、その機器をEU市場に上市できます(MDR第11条)。日本に本社を置き、EU域内に拠点を持たないメーカーは、通常この対象となります。
体外診断用医療機器についても、IVDR(Regulation (EU) 2017/746)に同様の規定があります。
なお、EU域内に自社法人を設立している場合でも、その法人がどの役割(製造業者、AR、Importerなど)を担うかによって必要な体制は異なるため、個別の確認が欠かせません。
ARの主な役割
ARの業務は、製造業者との書面による委任契約(mandate)で定められます。MDR第11条では、少なくとも次の業務を委任契約に含めることが求められています(要約)。
- EU適合宣言書と技術文書が作成され、適合性評価手続きが行われていることの確認
- 技術文書、EU適合宣言書、関連する認証書の写しを当局が利用できる状態に保つこと
- 登録に関する義務への対応、および製造業者による登録状況の確認
- 当局の要請に応じ、機器の適合性を示す情報・文書を提供すること
- サンプルや機器へのアクセスに関する当局の要請を製造業者に伝え、対応を確認すること
- リスクを除去・低減するための予防措置・是正措置について当局に協力すること
- 医療従事者・患者・使用者からの苦情やインシデントの疑いに関する報告を、直ちに製造業者へ伝えること
- 製造業者がMDR上の義務に反する行動をとった場合、委任を終了すること
また、ARは規制遵守責任者(PRRC:Person Responsible for Regulatory Compliance)を常時確保しておく必要があります(MDR第15条)。
ARが担わないこと
ARは製造業者の義務を代行する立場ではありません。製品の設計・製造、技術文書の作成、臨床評価、市販後監視、重大インシデントの報告要否の判断などは、引き続き製造業者の責任です。MDR第11条第4項では、第10条に定める製造業者の主要な義務をARへの委任によって移転することはできないとされています。
なお、欠陥のある機器による損害については、一定の条件のもとでARが製造業者と連帯して法的責任を負う場合があります(MDR第11条第5項)。そのため、委任を受ける前に製造業者の体制や文書を慎重に確認するのが一般的です。
AR・Importer・Distributorの違い
EU MDRでは、機器の流通に関わる事業者(Economic Operators)ごとに役割が定められています。1社が複数の役割を兼ねることも可能ですが、その場合も役割ごとの義務がそれぞれ適用されます。
| Authorized Representative(AR) | Importer(輸入者) | Distributor(流通業者) | |
|---|---|---|---|
| 位置づけ | EU域外の製造業者から委任を受けた、EU域内の代理人 | EU域外からの機器をEU市場に上市する、EU域内の事業者 | サプライチェーンの中で機器を市場に供給する事業者(製造業者・Importerを除く) |
| 主な役割 | 委任に基づく確認、当局の窓口・協力、苦情等の製造業者への伝達 | 上市前にCEマーク、EU適合宣言書、ARの指名、表示等を確認し、自社情報を表示 | 供給前にCEマークや表示等を確認し、保管・輸送条件を守る |
| 製品を物理的に扱うか | 扱うとは限らない | 扱う(輸入・上市) | 扱う(供給) |
| 主な根拠条文 | MDR 第11条 | MDR 第13条 | MDR 第14条 |
日本のメーカーが欧州で販売を始める場合、ARとImporterを別会社に分けるか同一会社に任せるかは、物流の流れや契約形態を踏まえて検討することになります。
ARを選ぶときの確認ポイント
委任契約の締結前に、主に次の項目を確認します。
- 委任契約(mandate)の範囲に、MDR第11条で求められる業務が含まれているか
- PRRCの体制(担当者、資格、常時対応可能な体制)
- AR自身の品質マネジメント体制(手順書、記録管理など)
- 苦情やインシデント情報を受け取ってから製造業者へ伝えるまでの流れ
- 当局からの問い合わせに対応する言語と連絡体制
- 賠償責任に備えた保険の有無
- 委任終了時の手続きと、文書・情報の引き継ぎ方法
- 日本側担当者とのコミュニケーション言語と頻度
これらは一般的な確認観点の一例であり、すべてを網羅するものではありません。
一次情報・参考資料
- Regulation (EU) 2017/745 on medical devices(EU MDR) EUR-Lex(欧州連合官報) — 第10条(製造業者)、第11条(AR)、第12条(ARの変更)、第13条(Importer)、第14条(Distributor)、第15条(PRRC)
- Regulation (EU) 2017/746 on in vitro diagnostic medical devices(IVDR) EUR-Lex(欧州連合官報) — 体外診断用医療機器に関する規定
- MDCG 2022-16 — Guidance on Authorised Representatives European Commission / Medical Device Coordination Group — MDCGガイダンス一覧ページから参照
よくある質問
ARとImporterを同じ会社に依頼できますか?
可能です。ただし、ARとしての義務とImporterとしての義務はそれぞれ別に適用されるため、役割ごとの体制や契約内容を確認することが大切です。
ARを後から変更することはできますか?
変更は可能です。ARの変更に関する取り決めはMDR第12条に定められており、変更の時期や、旧ARから新ARへの情報の引き継ぎなどを関係者の間で合意しておく必要があります。
EU域内に子会社を作れば、外部のARは不要になりますか?
一概には言えません。EU域内の子会社をARとして指名することも考えられますが、その場合は子会社がARとしての体制(PRRCを含む)を備える必要があります。どの法人がどの役割を担うのかを整理したうえで判断します。
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本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の案件に対する法的・規制上の助言ではありません。具体的な対応については、製品や状況に応じて専門家にご確認ください。